東大卒クライマーの植田幹也さんが、初心者の方に向けてクライミングの魅力を紹介。さらに、植田さんにとって思い出深いクライミングの聖地・ヨセミテの“camp4”をモチーフにしたマウンテンハードウェアのアイテムを着用してもらい、その感想も聞いてみました!
スポーツクライミングが国際大会の正式種目になり、ここ数年で国内にもボルダリング施設が続々とオープンするなど、盛り上がりを見せている“クライミング”。ただし、未経験の方にとってはクライミングに高いハードルを感じている方もいるのでは? そこで今回は、東大卒のクライマー・植田幹也さんにクライミングを始めたきっかけや記憶に残る体験などを振り返ってもらいながら、その魅力や楽しみ方を紹介してもらいます。また、植田氏にとって思い出深いクライミングの聖地・ヨセミテの“camp4”をモチーフにしたマウンテンハードウェアのウェアを着用してもらい、ヨセミテでのエピソードやウェアへの感想を教えてもらいました。クライミングの原体験。大きな転機となった富士山のガイディング
東大卒という経験を生かし、独自の視点でクライミングの楽しさや魅力を発信しているクライマーの植田幹也さん。西日暮里のボルダリングジム『Rhino&Bird』のスタッフを務めながら、WEBや雑誌でのクライミング記事の執筆、大会におけるYouTube配信の実況解説、さらにはクライミングをテーマにした人気ブログ『Mickipedia(ミキペディア)』を個人で運営するなど、多岐にわたる活動で注目を集めています。幼少期に何度か父親に山登りへ連れていってもらったこと、そして中学時代に有名な登山家や冒険家の本を読んだことから、漠然と“自然”に興味を持っていたという植田さん。高校で山岳部へ入るものの年に4、5回ほど山へ行く程度で、大学で入った山岳サークルでもそこまで本格的に活動してはいなかったそうです。ただし、大学時代に経験した山でのアルバイトが植田さんにとって大きな転機に。
「アルバイトで富士山のガイディングを始めました。当時の僕はサークルで本格的に山登りをするよりも、ガイディングを通してお客さんと触れ合う方が楽しくて、その登山ガイドを3年間続けて富士山に50回は登りましたね。それが僕の大学時代で唯一の“外のフィールドとの繋がり”でした」
一方、大学では物理工学科を専攻していた植田さんですが、東大の理系といえば卒業後は大学院に進む人がほとんどだったといいます。ただし、植田さんは登山ガイドで出会った人々の影響から、このまま大学院に進み、皆と同じレールに乗ってしまうことに疑問を感じていました。
「僕が富士山の登山ガイドで出会った人たちは皆すごく自由に生きている感じがして、中には『30歳までは好きな山登りをする!』みたいな人もいました。そういう人たちとの出会いから“このまま大学院に進んでいいのか”、“自分の可能性を狭めたくない”と思ったんです。あと、その頃すでに登山ガイドで知り合った方の紹介でボルダリングは始めていました。それらすべてを踏まえていろいろな可能性を考えた結果、ボルダリングは趣味として続けながら、仕事としては幅広いビジネスの経験ができる経営戦略コンサルティングの会社に入ることを決めました」 仕事はコンサル、趣味はボルダリングという日々がスタート。植田さんは当初、ボルダリングは趣味のレベルで終わるものだと思っていましたが、時間が経つにつれて「この仕事をいつまで続けていくのか……」と考えるようになり、加えて心の中には“何かに打ち込みたい”という気持ちがずっとあったそうです。
「仕事をしながら趣味でボルダリングを続けていく中で、自分でもやり方次第では目標とするレベルまでいけるのではと思うようになりました。仕事も辞めてすべて投げ打ってボルダリングに取り組めば、そこまで近づける手応えがあったんです。加えて、同じ趣味を持つ妻も同じ頃に本気で取り組みたいと思っていたことや、ブログの反応が良かったことなども背中を押してくれました。あと単純に仕事が激務だったというのも理由のひとつとしてありますね。結果、自分が登る方のパフォーマンスで満足できるレベルまでいけなかったとしても、いろいろな形でクライミング界に貢献できるはず、仕事を辞めてクライミング一本にするのは無謀な賭けではないと思えたんです」
そして26歳のとき、植田さんはコンサル会社を退社。ちょうどその時に通っていた『Rhino&Bird』のオーナーに「2号店を出すのでスタッフを募集してるよ」と言われ、植田さんはすぐに腹を決めました。富士山の登山ガイドに端を発し、社会人時代にも心の中で憧れていた“クライミングにどっぷりの生活”が始まったのです。
クライミングの“手軽に得られる達成感”と“ちょうどいい難しさ”
植田さんがクライミングにハマったきっかけを知るにあたって、始めた当初のことを振り返ってもらうと、そこには“手軽に得られる達成感”と“ちょうどいい難しさ”という2つのポイントがありました。「僕は元々どちらかというと身体を使うのが得意な方ではないのですが、ボルダリングは適切な身体の動かし方を覚えれば誰でも手軽に達成感が得られる。ただし、少しレベルが上がってくるとトレーニングを積む必要がありますし、何日かかけて攻略しないと達成できないこともある。そのちょうどいい難しさのバランスが僕にとっては面白かったんです」 そしてその「積み上げる面白さ」は、植田さんがクライミングを続けていく過程で大事にしていること。
「今ってスマホのゲームとかもそうですが、即時的な快楽で満足してしまう人が多いのかなと思います。ただ今も一定層のゲーマーはそうですが、難解なゲームを“ああでもないこうでもない”って攻略していくことに面白さを感じる人たちもいますよね。それが“積み上げる面白さ”で、トレーニングをしたり、知識を得たりしてようやくクリアできる体験に面白さを感じる人はクライミングに向いていると思います」 植田さんは『Rhino&Bird』にクライミングを体験しに来るお客さんに、「ずっとやってみたかったんですけど、何から始めていいのか分からなくて……」と言われることが少なくないという。
「ハードルが高いと感じる方たちは、外のフィールドなら超一流の登山家、屋内のフィールドなら国際大会に出るような選手をメディアで見ているからだと思います。ただクライミングにもさまざまなレベルがあって、例えば屋内のボルダリングの簡単なコースなどは、“ハシゴを登る延長線上にある動き”で登れるんですね。外のフィールドでも小さめの岩ならそれほど大きな差はなくて、むしろ誰でもステップアップしやすいスポーツだと思います。昔は自分も上手くなりたい、強くなりたいという意識にとらわれがちでしたが、最近は“毎日登れるだけで楽しい”とか“登ることでリフレッシュできた”ということだけでもいいと思えるようになりました」