旅をせずにはいられないフォトグラファー
自然の中での撮影は得意ながら、パタゴニア特有の著しい気候変化に晒されて、初日と2日目は疲労を覚えたといいます。しかしパタゴニアに向かったのは、この地の情報が豊富とは言い難い日本の旅好きに最新の姿を伝えたい思いもあり、3日目に気持ちを入れ替えたそうです。「積極的に旅に向き合おうと決めたら、人が撮りたくなったんです。山の中ですれ違うハイカーそれぞれにストーリーがあり、それぞれ人のストーリーを覗いてみたいな、と。またどの背景を切り取っても美しいのでかっこいいハイカーの写真を撮ることも楽しんでいました」
見せてもらった人物の写真は、どれもナチュラルな表情が特徴的でした。
「歩いている最中に呼び止められるのは面倒なはずなのに、皆とてもフランクで、声をかけると優しく応じてくれました。いろいろな国からさまざまな人が来ています。クリスマス時期だったので、装飾をつけて歩いている人もいれば、ハードな縦走装備の人もいる。今回のWルート内には1日で歩ける区間設定も用意されているので、親子連れも多いし、快適なロッジ泊もできる。旅の仕方はさまざま。けれど誰もが話しかければ笑顔を見せてくれる。環境が与えてくれる余裕なのかもしれません」
それだけではなく、フォトグラファーの力量もあるのでは?
「僕もハイカーの格好でしたからね。同じ場所を歩く仲間と思ってもらえたのかもしれない」 パイネ国立公園を離れた後も、オンボロのレンタカーで各地を数日間巡ったというこの旅。全体の感想をたずねたら、こんな答えが返ってきました。
「いい旅ができました。人との出会いやハプニングを通じて、また新しいストーリーを垣間見ることができたから」 とすれば、福本さんのよい旅とは、人との出会いなのでしょうか?
「良い出会いがあると、旅もより良いものになる、と感じるのは確かです。けれど、僕が旅する気持ちを表せる言葉はまだ見つかっていません。どこかへ行きたくなると必ずワクワクするし、フォトグラファーとしては動かないと何も始まらないので、とにかく飛び込まなきゃとも思うし。でも、向かう場所が海外じゃなきゃダメってこともなくて、隣の家を訪れても旅になるというか。知らない世界を知ること。そのすべてが旅に解釈できるみたいです。でも、こんな答えじゃ中学生みたいですよね」 苦笑いを浮かべた福本さんは、このインタビューの翌週にアフリカのボツワナに飛ぶと教えてくれました。仕事になる予定は何もないまま、「まだ情報も少ないエリアですが、奇跡的な動物のシーンと天気との条件が一致する滅多にないタイミングなので、思わずネットでポチっと……」
やはり、旅をせずにはいられない性分なのでしょう。その先々の空気で存分に呼吸しながら撮る写真で、これからも福本さんのいい旅をたくさん見せてほしいと思います。
INFORMATION
シュラフ:『ファントム 15F/-9C Reg』
バックパック:『PCT55Lバックパック』
アウター:『ミニマイザーゴアテックスパックライトプラスジャケット』
パンツ:『マウンテンスピードパンツ』
レインパンツ:『ストレッチオゾニックパンツ』
ショートパンツ:『コアエアシェルショーツ』
ミドラー:『ゴーストウィスパラーULジャケット』 ※販売終了
テント:『AC(tm) 2 テント』
PROFILE
フォトグラファー/ディレクター。自身の旅を通じて世界各地でのドキュメンタリーやアウトドア写真/映像の撮影を行う。北極圏やアフリカ、山岳でのキャンプといったアウトドアフィールドのタフな旅からラグジュアリーホテル撮影など“旅”を軸に幅広く活動。旅や冒険の中で出会う、そこに存在する人々や風景の至福の瞬間を収める。
HP:https://www.reo.jp
Instagram:https://www.instagram.com/reojp/
Text:田村 十七男
Photos:大石 隼土