知らないところに飛び込むために、好奇心を大事にする<元プロ野球選手・五十嵐亮太>

158km/hの速球を武器に、日米通算906試合に登板した元プロ野球選手の五十嵐亮太さん。引退後のセカンドライフでは、野球の解説やテレビ出演の仕事をしながら、趣味でスキーやバイクツーリングに打ち込んでいます。今回はバイクツーリングキャンプに同行し、五十嵐さんが感じるアウトドアの魅力について聞きました。

風を切る感覚が、スキーと似ている

ーー現役を引退後、野球解説者としてご活躍しながら、セカンドライフとしてスキーやバイクなどの趣味に打ち込むようになったと伺いました。まずはじめに、バイクに興味を持ったきっかけについて教えてください。

きっかけとしては映画にあるような、バイクに乗ってるワンシーンが記憶に残っていて、カッコイイなあという、シンプルな動機でした。現役時代から興味はあったので、選手としての生活に支障が出ない範囲で調べたりしていましたね。

ーーはじめてバイクに乗った時の印象は?

初めてバイクにまたがったときは、正直そこまで大きな「衝撃」を受けたわけではなかったんです。今ほど好きではなかった。でもふと気がつくと「あーバイクでちょっと山行きたいなぁ」とか、「海でも見に行こうかなぁ」といったことを考えはじめているんです。バイクが好きだから考えているというよりは、感覚的に、自然と意識がバイクへ向かうようになりました。

ーースキーの国体選手だったお父様の影響もあって、スキーも趣味にされていますね。バイクとスキーには共通点があるんでしょうか?

そうですね。バイクとスキーは感覚が似ていると思います。スキーは子どものころ父親と一緒に滑っていて、当時の記憶が今も残っているんです。滑り降りてくるときの風を切る感覚や、寒いけど、自然の中にいること自体が好きで、バイクもスキーと同じように風を切る感覚があるし、自然をダイレクトに感じられます。

移動の手段として考えると、当然バイクよりも車の方が快適ですし、もし転んだら大怪我をしてしまうかもしれない。でも、そのスリリングな瞬間や、ワクワク感を求めているんだと思います。

ーー引退後は野球解説者として、メディアに関わる仕事も多いと思いますが、仕事と趣味のバランスをどのように捉えていますか。 仕事と趣味のバランスはとても大事だと思います。僕の場合は仕事がメインで、ちょっとした隙間に趣味を楽しんでいます。僕自身、今の環境に満足し、納得もしていますが、今後は仕事が減っていくかもしれない。

そうすると必然的に趣味の割合が大きくなってきます。その時に自分の趣味があって、なおかつ今よりも楽しめる状態にはしておきたいです。

本来なら面倒なはずなのに、なぜか単純な作業一つひとつが楽しくなるんです

ーー幼少時代に家族で行ったキャンプの記憶が残っていると伺いました。今回のツーリングキャンプを通じて、あらためてその魅力をどのように感じましたか?

キャンプはやっぱり非日常を感じられますよね。現代社会では、日々の暮らしで不自由さを感じる場面って少ないと思うんです。あったかいものを食べたければ、ガスコンロを使って調理したり、電子レンジで簡単に温めることもできる。家の中であれば当然、雨風に当たることもありません。

ただ、一歩外に出ると、そうはいかない。風が強ければ、ガスバーナーやカセットコンロを使っても思うような火力を得られないこともあります。風向きを考えながら、その場にあるものをうまく使って風を遮ってみる。そこには日常では必要ない動作が加わってきます。本来なら面倒なはずなのに、なぜか単純な作業一つひとつが楽しくなるんです。 加えて僕の場合は、自然の中に身を置くと、どこか安心するんです。子どものころに家族で海や山でキャンプをしたときの記憶が残っていて、夕方くらいから火を起こしてみんなでバーベキューしたり、焚き火を囲んだり。日の出とともに目が覚めると、空気がひんやりして寒かったりする。

焼いた肉を家の中で食べるのと、キャンプ場で食べるのとでは、同じ味なはずなのに不思議と美味しく感じられる。特別な空間や時間の中で過ごせると思います。

ーー焚き火を囲んでいると落ち着きますか?

「火をみると落ち着きますね」と言葉に表してしまうと、かっこつけてるみたいですけど、すげぇボーっとできるじゃないですか。何も考えなくていいし、不思議と疲れが取れてくる。火を見てると考えごとをしなくてよくなるからなのか、単純に「そこにいるから」なのかはわからないですけど、火を囲んで、眺めて、温まってるだけで、とにかく心地がいいですね。明確な理由があるというよりは、感覚的なものだと思います。 ーー自然に触れることを通して、生き方の価値観に変化は生まれましたか?

普段の生活ではどうしても情報過多になりがちで、情報を自分で受け取りにいかなくても勝手に入ってくると思うんです。でも自然の中でゆったりとした時間を過ごしていると、緊急性やそこまで重要ではない情報に関しては、ある程度自分でシャットアウトすることができます。

実際今回のキャンプツーリングでも、スマホに仕事に関する通知がきていました。もちろん返事は早い方がいいと思いますが、急ぎの案件でなければ「あとでもいいかな」と思える。それが今の僕にとっては幸せな気持ちに繋がっている気がします。

できないよりできた方がいいし、知らないより知ってた方がいい

ーー趣味を探している人やアウトドアに興味を持っている人に向けたメッセージをください。

僕自身は知らないところに飛び込む、その好奇心を大事にしています。好奇心に飛び込んでみることで、それが刺激になり、人生観が変わったりする。ただ、普段からアンテナを張っていないと、なかなか行動に移せないと思うので、まずはいろんなことに興味や関心を持つようにしています。僕の場合は自然の中に身を置くことによって、新しい発見や気づきが生まれるんです。

もし災害があって、電気やガスなどのインフラが止まってしまったときに、生きていけるのか。災害は起きないことが1番ですが、非常時の対応を少しでも考えるきっかけになったりしてます。これは人として生きていく上ですごく大事なことだと思っています。 便利な生活に慣れすぎると、想定外のことや望ましくないことが起きた時にネガティブな感覚になってしまいがちですが、普段から好奇心に飛び込んで新しいことに挑戦していると、マイナス思考になりにくいです。その時々の状況下で、最善を尽くせる。できないよりできた方がいいし、知らないより知ってた方がいい。その中で楽しみも絶対見つかると思うので、その人なりの楽しさを見つけてもらいたいなと思います。

あとは経験者が教えてくれると思うので、周りにいる詳しい人に聞いたり、連れてってもらうことをおすすめします。バイクツーリングでも、行った先で入る温泉や美味しいものを食べることがセットになってくると、楽しさがどんどん増していきます。経験者に学ぶことは大事です。バイクでもキャンプでも、まずは詳しい人と仲良くなって、経験者から「感じる」ところからだと思います。きっといいものが感じられるはずです。 ーー最後に今後について、バイクツーリングはどうステップアップしていきたいですか?

もう少しアクティブに、一歩一歩進んでいきたいです。今回は素敵な景色を眺めながら、舗装された安全な道を走ってきました。ツーリングとしてはそこまで負担がかからない。今後はバイクやタイヤも変える必要がありますが、たとえば未舗装の林道も走ってみたい。

そのときに感じる緊張感や負担が、僕の中では達成感や喜びに繋がっていくような気がします。何かを達成したら、また次の目標を持つことで、どんどん自分の成長を感じられる。徐々に登っていく感覚をこれからも求めていきたいです。

PROFILE

元プロ野球選手・五十嵐亮太 千葉・敬愛学園高から1997年にドラフト2位でヤクルトスワローズに入団。当時日本最速となる158km/hの速球を武器に2003年に最優秀救援投手のタイトルを獲得するなど、リリーフとして活躍。2010年からメジャーに挑戦し、ニューヨークメッツをはじめ4球団を渡り歩き、2013年には福岡ソフトバンクホークスに移籍し日本一に貢献。2019年に古巣のヤクルトスワローズに復帰し、2020年シーズン限りで現役引退。日米通算906試合登板を誇るレジェンド。現在はNPBだけではなくMLB解説など幅広く活躍中。

Text:Nobuo Yoshioka Photos:Matthew Jones,Hiroto Miyazaki