世界最高峰の舞台で今季も優勝! プロ・アングラー伊藤巧がアメリカ挑戦6年目で得た覚悟

コロンビア・スポンサードアスリートとして挑み続ける伊藤巧さんが、全米バスフィッシングトーナメントの『B.A.S.S. バスマスターエリートシリーズ2024』で、2021年シーズンに続く2勝目を記録! 世界最高峰の舞台で身を削りながら戦ってきたからこそ得たという、プロフェッショナルならではの覚悟をたずねました。

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極めたスタイルは、大勝ちか大負け

──まずは、『B.A.S.S. バスマスターエリートシリーズ2024』第7戦の優勝、おめでとうございます。2021年と2022年のインタビューでも話していた、年1回優勝の目標を2シーズンぶりに達成されました。チャンピオンになった今季の第7戦はどんな展開でしたか? 実は、4日間で行われる試合の2日目あたりで、今回は勝てる予感がしたんです。この感覚は、2021年シリーズで3位になったときにも覚えがあるし、今シーズンの最終戦でも感じました。初日が1位で2日目が4位で、3勝目に手が届くと思ったら、3日目でボートが壊れて36位で終わりましたけれど。 ──優勝の予感を支えたものとは? 今年の第7戦で言えば、僕にしかできない、日本で培ったテクニックを生かせたのが大きかったです。開催地になったアラバマ州のスミスレイクは、アメリカに挑戦した2019年のオープン大会で8位になった場所なんですが、湖の造りや魚のすれ方が千葉県の亀山ダムによく似ているんです。全体的にアメリカはバスのプレッシャー(魚の警戒心のこと)が低めですが、スミスレイクは高めで、それを知っていた僕は自分の釣り方が合うと信じて戦いました。 ──それは伊藤さんの引き出しの多さによるものですよね? 逆です。わざと日本で得た引き出しだけで戦っているんです。アメリカ人と同じ釣り方をしていたら勝てないから。総じてアメリカの釣りはダイナミックで、憧れる部分もあります。けれどそれを学んでも、体力的な面で叶わないし、同じ場所で釣ることになって勝率が下がる。そこで僕は、得意とする日本の釣りをもってアメリカで勝負することに決めました。年間9戦もあれば、不得意なラージマウスが対象の大会もありますから、大勝ちか大負けでいい。そのスタイルを極めたら、結果的に獲得賞金が増えました。人生で一度も優勝できない選手が圧倒的に多い中で、2度も優勝トロフィーをもらえたのも、僕の経験則の証明になると思います。 ──大勝ちか大負けで良しとするならば、今シーズン全体はどんな感想になりますか? 7戦目で優勝できなかったらヤバかったですけど、起死回生が果たせて、AOY(アングラー・オブ・ザ・イヤー/大会成績による年間順位。104人中トップ70が翌年のエリートシリーズ参戦資格を取得。また、トップ40に入る事ができれば、年1回行われるバスマスタークラシックの出場権を付与)で34位になれたので、よくできた年と言っていいと思います。クラシックも10位でしたし。

居心地がよすぎる日本の秘密基地

──ここで話題を今日の場所に転じます。バスボートが2艘も収まっているこのガレージは、伊藤さんの日本拠点ですか? そうです。エリートシリーズが8月に終わって帰国して、12月に渡米するまでの間、ここをベースに日本で活動します。元は実家のたまご倉庫だったんですよ。それを親父から借りているんですが、2021年の優勝祝いで地元の先輩が改装してくれました。1階にシャワールーム、2階には寝室もあります。ここを整えていくのが、日本にいるときの最大の楽しみです。 ──入口にはオートバイもありました。男の子が憧れる秘密基地の雰囲気ですね。 あれは学生時代に釣りへ行くとき乗り回していたもので、その後放置して不動になった状態を、釣り好きのオートバイショップの方がフルレストアしてくれました。先週届けてもらったばかり。こんなにキレイになるなんてびっくりです。 ──周囲から愛されていますね。 本当に周りに恵まれています。ありがたいです。 ──このガレージにいるときが心を休められる時間になるわけですね。 あまりに居心地がよくて、腑抜けになりそうです。アメリカではもう少しピリッとしています。試合に出るため全米を移動中は、都会でなくても存在する危険な地域を空気感で察知しながら走っていますから。それに引き換え日本は安全。こんなにいい国はないです。食べ物もおいしいし。 ──食べ物で言うと、以前はアメリカ人に体力で負けないよう、毎日ステーキを食べると話していましたね。 おかげで服のサイズがSからLになりました。でも、さすがに飽きたので今は食べません。 ──体のケアは? 独学で学んだストレッチと筋トレを毎日。よく眠れるので、大会中も欠かしません。やっぱり体あって、なんですよね。1日5時間ボートのアクセルを踏みっぱなしで、3時間の釣りをすると、どうしたって心身ともに疲弊します。だから、いかに体の負担を減らすかはかなり気を遣います。今日も履いているコロンビアのピークフリーク ツー アウトドライ ワイドは、軽くて強度があって防水仕様なので、魚群探知機と連動するボートの繊細なアクセルワークに最適です。アメリカ人の中にはビーサンの選手もいるようですが、僕は細部まで神経を行き届かせる釣りをするので、それをフォローしてくれるコロンビアのアイテムと一緒に戦えるのも心強い限りですね。

僕にできるのは、アメリカで学んだことを日本に伝えること

──間もなく新しいシーズンが始まります。アメリカに挑戦して7年目。最高峰のエリートシリーズに参戦して6年目。どんな戦いを望みますか? 目標は最初から変わらず、年1回の優勝と、人生が変わるほどの賞金が得られるバスマスタークラシックで勝って、即隠居すること。けれどエリートシリーズは20代の選手が活躍し始めてきたので、来季はこれまで以上に苦戦するかもしれません。 ──世代交代が起きていると? 若い彼らは、魚群探知機を始めとするエレクトロニクスを10代から使いこなしているんです。そこはベテランが苦手としている部分なので、世代交代が起きるのは当然かもしれません。僕は使いこなせているので、まだイケると思いますが、シリーズ全体の平均年齢が現在38歳の自分の年齢あたりなので、安心はできません。特に目は、今後ますます不安材料になっていきそうです。 ──2022年のインタビューで、視力回復のレーシック手術を受けたと聞きました。それでも心配なのですか? 問題は老眼です。もし老眼を治せる手術があるなら、迷わず受けたいくらい。まだ始まってはいませんが、老いによる視力障害が避けられないのであれば、覚悟を決めなければなりません。 ──どんな覚悟ですか? このシリーズで戦えるのは、あと5年と見極めることです。あるいは4年で終わるかもしれませんが、アスリートとして自分で限界を判断するのは重要なことです。とは言え、来年のクラシックで優勝できたとしても、即引退はしないと思います。あくまで、現在の体力が保たれ、バチバチのトーナメントを戦う競技生活を続ける気力があるうちは辞めません。ただ、肉体の変化が始まったら、周囲より先に自分が気づいて身を引かなければならない。それは遅くても5年以内だろうと。でも、釣りは辞めませんけどね。 ──競技引退後のビジョンはありますか? 日本の釣り環境を改善するお手伝いをしたいと思っています。子供が自転車に乗って出かけられるような、気軽に釣りを楽しめる環境を取り戻したいですね。その一助になればと動画配信を始めていますが、やはり僕にできるのは、アメリカで学んだことを日本に伝えることです。もっと活躍しないと伝えるべき情報が足りないので、まだまだ向こうで頑張ります。 ──大勝ちか大負けの戦法で? そうですね。それはエリートシリーズで培った僕のスタイルですから。 ──となると、我々は大会後に発表されるAOYの順位に一喜一憂しなくていいことになりますか? 僕にとってAOYで1位になるのが目標ではないし、自分の考えやスタイルにブレが生じると、結果につながらないことも経験済みです。でも、こんなにでっかく負けたらヤバいと僕自身も心配しながら戦っているんですけどね。 3度目となった伊藤 巧さんのインタビュー。今回もまた、このあとすぐアメリカに戻り、新シーズンの準備を始めるそうです。衝撃的と言っていい覚悟を話してくれた日本人プロ・アングラーの活躍に、今後も注目していきます。また、コロンビアから来春発売予定の伊藤 巧モデル情報を間もなく公開。こちらもご期待ください。

PROFILE

伊藤 巧(いとう たくみ) 国内で数々の功績を収め、 2019年より本場アメリカのB.A.S.S.ツアーに参戦、参戦初年度にしてバスマスター・セントラルオープン年間4位となる。2020年は最高峰であるエリートシリーズへ昇格し、2021年はセントローレンスリバー戦で見 事優勝を果たす。日本のみならず海を渡ったアメリカでも偉業を成し遂げるプロアングラー。 X:@takumi_no_oheya Instagram:@takumiitou4663

Text:田村 十七男 Photos:大石 隼土

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