悟りの町で気づいた壁画を描く役割
初のクラウドファンディングによる壁画制作プロジェクト。最初に向かったブッタガヤの学校では、およそ10日かけて6m×4mの絵を仕上げたそうです。 「最高に楽しかったですよ。青をベースに不思議な動物の絵を描きました。最終的には全生徒に参加してもらったので、子どもたちも喜んでくれたと思います。インドはいい感じでユルくて、授業を抜け出してくる子がいても先生は叱らないんです。そればかりか、私が教室をのぞきにいくと、教壇に呼ばれて日本語を教えてくれってなって。子どもも大人も人懐っこい感じに触れていたら、そのままインドに住みたくなりました」 一方で子どもたちが集まる場所には、土地の実情が色濃く反映されるとルルさんは言いました。 「その学校には孤児たちの寮があるんです。日曜日に行くと寮の子たちが出てきて、一人の男の子は『僕には家族がいないからルルをお姉さんと呼んでいい?』と言ってくれました。とても気がかりだったのは、活発な男の子たちにくらべて女の子たちが控えめなことでした。いまだに女性の地位が低く、さまざまな機会を与えられないことに理由があるそうです。だから遠巻きの彼女たちをできるだけそばに呼んで、いっしょに描いてもらいました。私が見た限りでは、楽しくやってくれたと思いますけれど」 町を歩いても、満足な医療を受けられてない子どもたちを数多く見かけたそうです。どこを取っても貧しさが宿っている環境の中、それでも屈託のない笑顔を向けてくる姿を目の当たりにして、ルルさんは一つの決意を抱きました。 「インドにいる間、400本くらいのショート動画をInstagramにアップしました。ただ可哀そうなだけじゃない人たちの日常を知ってもらいたくて。それに共感してくれた方がたくさんいました。これかなって思ったんです。もともと旅が好きで、絵を描くのも好きになって、そこに行かなければ成立しない壁画を描くようになった私の役割は、現地の子どもたちの生活ぶりを伝えることなんじゃないかと。今回のインドでは、人のために描くっていいなあと、はっきりわかった気がするんです」 そしてルルさんは、「これも信じてもらえないかも」と前置して、町の寺院を訪れた際のエピソードを話してくれました。 「ブッタガヤには、ブッダが悟りを開いたという世界遺産のマハーボーディ寺院があるので、到着したその日に足を運んでみました。寺院の中はかわいいお花であふれていて、お坊さんたちがお経を唱える声が響き渡っていて、そのパワーに圧倒されたらふわっと涙があふれちゃったんです。それをインスタで報告したら、思わず泣いたのが12月8日で、それはブッダが悟りを開いた日だよと教えてもらって……」 その体験を経て子どもたちと仕上げた青の壁画は、いつまでもブッタガヤに残る。やはりこの人の場合、それ以上の説明は不要かもしれません。 年内はクラウドファンディングで示した壁画制作に邁進(まいしん)し、その先はスポンサーを募った海外活動を行いたいそうです。言うまでもなく、壁画を描く意味を確実なものにするために。 そんな決意を表したルルさんとコロンビアのコラボレーション。「アーティストの意思を尊重して自由に描かせてもらえたのがうれしい」と語る第2弾のアイテムが間もなく登場します。ポートランドとの縁も必然と思えるルルさんの世界観を、ぜひその手に取って感じてください。INFORMATION
PROFILE
Text:田村 十七男 Photos:大石 隼土