アウトドアでのキャンプ&登山&フェスで欠かせないアイテムといえばレインウェア!急な天候の変化に対応してくれるアイテムはしっかりとしたものを選びたいところです。今回はコロンビアのウェアのデザイン・商品開発を担当している岩瀬さんにレインウェアにまつわる素材について、コロンビアが独自に開発した防水透湿技術〈オムニテック〉やベンチレーション(換気)の話も交えながら教えてもらいました。
暖かい日もふえてきて、アウトドア遊びの気持ち良い季節になってきました。冬場はインドア派な方も、そろそろ山やキャンプのことを考え始める時期ではないでしょうか。そんなアウトドア遊びで押さえておきたいアイテムといえば、悪天候への備えという意味ではもちろん、アウトドアで避けられない汚れ対策にも役立つレインウェア。今回はコロンビアのウェアのデザイン・商品開発を担当している岩瀬さんに、レインウェアで重要な素材について、コロンビア独自に開発した防水透湿技術〈オムニテック〉を始めとするお話を伺いました。
※この記事は、CSJ magazineで2016.4.20に掲載された「レインウェアに欠かせない防水透湿性。でもそれだけじゃないレインウェアを選ぶポイント│インサイドコロンビア Vol.2」の内容を再編集し、増補改訂したものです。(着用ウェア、掲載商品は取材当時のものとなりますので、一部取扱がない場合がございます。)
コロンビア独自に開発した防水透湿技術〈オムニテック〉とメンブレン
──岩瀬さんはコロンビアの商品開発とデザインにいつから携わっているのですか?
コロンビアジャパンが出来る前(Columbia Sportswear Japan:1997年設立)、コロンビアのディストリビューター(販売代理店)をしている会社に入った1993年からです。僕よりコロンビア歴が長い人はいないんじゃないかな、会社より古いからね。ちょうどコロンビアの日本仕様の商品を始めるというタイミングで、最初にやったのがレインウェアでした。
──ということはレインウェアの開発に20年以上携われているのですね?
そうですね。山にはよく登っていて、昔は多いときに年間50日以上は山で過ごしていたので、自分で設計したレインウェアを自分で試して改良を重ねています。
──早速伺いたいのですが、コロンビアのレインウェアの機能でよくある〈オムニテック〉とは何ですか?
いわゆる防水透湿機能のことです。外からの雨を防ぎ、内側の湿気(汗)を外に出して、不快なムレを抑えるレインウェアには欠かせない機能です。
──防水透湿といえばゴアテックスが有名ですよね。
そうですね。コロンビアもかつてはゴアテックスを採用したレインウェアを作っていました。ただし、他社の技術を借りてしまうと使用料が製品に乗ってしまうので(価格が)高くなってしまう。少しでも価格を抑えて提供するために、コロンビア独自に開発した防水透湿技術がオムニテックです。
──そもそも防水透湿技術とはどのような仕組みですか?
防水は難しくないので、いかにウェア内側の湿気を外に出すのかが“透湿”という技術のキモ。透湿機能を果たすのは、ウェアの内面のメンブレンと呼ばれる皮膜です。メンブレンには細かな孔(あな)の空いた“多孔質メンブレン”と、孔のない“無孔質メンブレン”の2種類あります。多孔質メンブレンは水蒸気を通すため快適性という点で優れていて、オムニテックはこの多孔質メンブレンですね。
──多孔質のデメリットはありますか?
まず無孔質メンブレンは、シート状のメンブレンをウェア素材に貼るのでどんな素材にも使えます。一方、多孔質メンブレンは液状のメンブレン原料をウェア素材に塗るので、柔らかい布素材だと素材にメンブレンが染み込んで重くなってしまう。なので柔らかさや軽さを追求する製品には向いてないですね。
あと、どれだけ透湿性があるのかを計測する方法が多孔質と無孔質で違います。多孔質は水蒸気を通すので空気中の水蒸気を何グラム通すかという計測方法なのですが、無孔質は水蒸気を通さないので水(液体)で計測します。注意すべきなのは無孔質の計測方法だと水分を通しただけでなく、メンブレンが吸った水の量も効果としてカウントすること。だから同じ素材でも無孔質の計測方法は数値が高く出がちなので、透湿性の数字をそのまま信じちゃ駄目なんです。防水透湿性を比較するときは、多孔質か無孔質かで数値を単純比較できないというのを知っておいた方がいいですね。
レインウェアにとって素材とともに大事なベンチレーション(換気)
──年間50日以上も山に行かれるとのことですが、ご自身ではどういった視点でレインウェアを選びますか?
防水透湿素材の話をしていたところで話の骨を折っちゃいますけど、レインウェアにとってもちろん素材は大事ですが、ベンチレーション(換気)も大切。ベンチレーション機能がしっかりあれば、防水透湿性がそこそこでも湿気は抜けますからね。だからレインウェアを選ぶ際には、ベンチレーションをチェックすべきです。
──岩瀬さんがオススメするレインウェアは?
マウンテンズアーコーリング(マウンテンズアーコーリングIIジャケット)ですね。これに身体の側面部分のベンチレーションが付いてれば、アルパインにも使えて個人的には完璧なんですが。側面の部分にベンチレーションを入れるのは裁縫工程が多くなってしまい、製品価格が跳ね上がってしまう。だから冬山などのハードな登山を想定していない春夏モデルには側面のベンチレーションは入れず、ポケット内側にベンチレーションを付けたモデルが多いですね。
マウンテンズアーコーリングもポケット内側にベンチレーションを付けています。ただしポケット兼用ベンチレーションだと、夏山は暑いので皆さんポケットを全開にして歩くんですよ。そうすると雨がウェアの内側に入ってしまって、そもそものレインウェアの機能を果たせない。それでは本末転倒なので、マウンテンズアーコーリングのベンチレーションはポケットを開けたままでも雨が入らないように、一番奥に設計しています。
また、ポケットに入った雨が換気穴に流れていかないように、口の手前にレインガーター(雨止めのヒダ)を。そこを伝ってポケット内側の下に落ちたら、今度はウェア中央に開けた水抜き用の穴に向けて流れるよう緩やかなカーブで縫製しています。
──すごい! そんな細かい工夫までは気付きませんでした。
さらに止水ファスナーの内側に雨止めを付けるなど細かな工夫も。最近の登山はクライミングヘルメットが推奨されていますから、フードはヘルメットのままでも被れる大きめの設計にするなど、時代に合わせた設計もしています。
レインウェアを選ぶ際はそういったディテールまで見て選んでほしいですね。その上でマウンテンズアーコーリングを選んでください! 春夏のレインウェアの中では一番良くできてるんじゃないかな。安いアイテムではないので、ディテールまでじっくり見比べて検討してくれたらなと思います。
プロフィール
岩瀬 英祐
1993年にディストリビューターであったハワードに入社。入社時よりコロンビアの日本企画がスタートし、初年度から開発に関わり、レインウェア、アウタージャケット、フリースジャケット、クライミングパンツなどのアイテムを中心に開発。1997年に日本駐在事務所が設立された時点でハワードから移籍。その後、同年6月に日本法人が設立され、そのまま企画開発を担当する。プライベートでは山と山岳写真、ダウンヒル(MTB)からアート鑑賞まで幅広い趣味を持つ。特に山歴は30年に渡り、愛用の中判カメラ『ハンザフィールド69II』を担ぎ、より理想とする写真を求めてクライミングルートや厳冬期の八ヶ岳南部、北アルプス南部を登っている。