「新しい趣味をみつけるために登山をはじめました」そう語るのは、管理栄養士の吾妻梨花さんです。社会人になってから山登りに1人で初挑戦して以来、今では日帰りだけでなく、テント泊や冬山にも行くほどハマっているんだそう。2024年11月某日。今回はそんな吾妻さんが初めて登ったという栃木県の那須岳に、改めて一緒に登ることになりました。吾妻さんにとっての山の魅力や、仕事と山のオン・オフの切り替えについて聞いていきます。
いきなりグッと心を掴まれたんです
──初めての登山について、具体的なエピソードを教えてください。 初めての登山は栃木県の那須岳でした。紅葉が見頃となる10月初旬に、1人で登ってみたんです。単独かつ、初めてだったので、何日も前から計画して、地図を何度も広げたり、Youtubeで予習したり、必要な道具を調べて買い揃えたりと、念入りに準備しました。 行く前も、当日も、とにかく緊張の連続です。いざ山に行ってみると、たくさん予習をしてきたせいか、「見たことがある景色」もありつつ、実際に自分の足で山頂まで辿り着いて、目の当たりにした景色は格別でした。目の前に広がるきれいな景色に感動するだけでなく、自分で計画を立てて登りきったという達成感や安堵も相まって、今まで生きてて味わったことのない感覚で、いきなりグッと心を掴まれたんです。 ──そもそも登山をはじめたきっかけは何だったんでしょうか? これといったきっかけはなく、新しい趣味をみつけるために登山をはじめました。もともと旅行や自然に触れること、体を動かすことが好きだったので、それらを掛け合わせたものが登山でした。 加えて、中学・高校ではバレーボール部に所属していたため、チームプレーの良さはありましたが、一方で1人で何かを成し遂げるわけではない。大人になると、まわりと時間を合わせるのも大変ですし、自分の力を試す機会ってほとんどなくて。だれかに憧れていたわけでもなく、誘われたわけでもなかったんですが、思い切って1人でやってみることにしたんです。悩みを山が聞いてくれて、スッキリします
──ふだんは保育園で管理栄養士の仕事をしていると聞きました。 保育園で管理栄養士として、栄養を考えて献立を考えたり、給食をつくったり、最近では園児に対して食育活動もしています。人間の体って食べ物から成り立っていると思うんです。子どもたちが成長する姿を間近でみると「自分がつくったごはん」が子どもたちの栄養の元になっているんだな、と実感できます。子どもたちの成長が、そのまま自分のやりがいに繋がっているんです。 ──登山が仕事に与える影響は? 登山という趣味を見つけたことで、オン・オフの切り替えが明確になりました。登山をはじめる前は、これといった趣味がなく、休日は家でダラダラするか、友だちと街中に出かけてゆっくりするくらいで、特に目的もなく週末を過ごしていました。 登山に出合ってからは、平日の仕事終わりに「さあ、今週末は山に行くぞ」と具体的な計画を立て始めるようになりました。金曜日の夜はソワソワしながら準備して、週末は山に行って思う存分リフレッシュしてきます。 1人で登る場合、天気が良いときは、景色に夢中になれるけど、天気が悪いときももちろんあります。そういうときは、登山の計画を振り返ってみたり、自分を見つめ直すんです。話す相手がいるわけではないけど、私生活の悩みや人には言えないことを山が聞いてくれているような気がして、スッキリします。そして月曜日からまた仕事と向き合う。自分にとっても良いサイクルができています。山には、とても感謝しています
──吾妻さんにとって、山とはどんな存在ですか? 私の場合、山は自分の力を試す場でもあります。例えば、ウェアのレイヤリング1つをとっても天気によって着替えたり、薄着したり。正解ってないと思うんです。山の天気に臨機応変に対応するためには、経験を積まないと判断できないことが多い。 「登り始めは寒くても、厚着してから出発すると歩いてる途中に結局暑くなるんだよな」とか。そういう小さいこと全てにこれまでの学びが生かされます。登山は危険も伴うため、安全が保証されているわけではありません。毎回挑戦していると言えるし、自身の成長にも繋がっていると思います。 そもそも登山に挑戦できるのは山のおかげでもあるし、私を成長させてくれる機会を与えてくれます。なので山にはとても感謝しています。もし登山に出合っていなかったら、どんな人生になっているか、想像がつかないです。 ──今回はご友人も含め、改めて那須岳に登りましたが、いかがでしたか? 日の出を見たかったので、夜中の2時に自宅を出発しました。3時に友だちと合流して、朝の5時に登山口に到着、登山開始です。1日は24時間あるけれど、日が昇るタイミングと沈むタイミングは本当にあっという間です。 ふだん、日の出の時間帯は寝ていることがほとんどです。日常では見過ごしてしまう朝日を見るために、いつも早めの出発を心掛けています。朝日って見る度に色が違うんです。タイミングによってピンク色のときもあれば、もっと濃い赤色の時もあって。見る度に変わる朝日の表情を見ることも楽しみの1つです。 今回見た朝日は太陽が深いオレンジ色で、澄んだ水色の空が広がっていて、見た瞬間に「ありがたい」という感情と、この景色をしっかりかみしめたいという思いが沸きあがりました。 加えて印象的だったのは、茶臼岳にかかってた雲が、自分たちに迫ってきた場面です。最初は「あっ、ガスっちゃう」って思ったんですけど、太陽が昇ってきて、山がベールににつつまれはじめて、光と雲の合間を自分が漂っているような感覚でした。5年近く登山をやっている中で初めてみる光景でした。 ──今後は山登りとどう向き合っていきたいですか? 山登りをとにかくずっと長く続けたいです。登山を趣味にした理由のひとつに、細く長くできることもあります。もし将来子どもができても、歳を重ねておばあさんになっても山登りは続けたい。まだまだ行ったことないところもたくさんあるので国内外問わず、気になる山にはどんどん足を運びたいなと思います。PROFILE
Text:Nobuo Yoshioka Photos:Matthew Jones