ベースキャンプ、上部キャンプ、山頂付近で全く気候は異なりますが、概ね、どこもマイナスにはなり、山頂はマイナス30度を下回ることもしばしばあります。

そして、風が吹いていれば、更に体感温度は下がります。さらに、自分自身の身体の寒さへの抵抗力も空気分圧（酸素濃度）が3分の1なので身体にかかる酸素不足の負担も3倍と考えられていますので、マイナス10度は、マイナス30度に感じる。

例えば１０ｍの風が吹いていれば、表皮体感温度はマイナス10度と言われていますが、エベレストでは２０ｍ吹いている様な事もありますから、ざっとマイナス50度の体感温度！

また、荷物の10キログラムは、地上の30キロに感じると例えられてきましたので、
この計算で行くと、山頂付近の気温は総合体感温度では、いったい幾ら下がるのか恐ろしいですね。それでも平気で往復してくる人間は凄いですよね。

人間の身体を寒さから守る素材（物質）は、空気といわれています。
ただの空気ではなく「流れにくくなった空気」「とどまる空気」「行き止まりの空気」のことで、これをわたしたちの業界用語では「デッドエアー」と言います。

ダウンは、羽毛自体が温かいのではなく、その羽根の極めて細かい隙間にたまった空気が熱伝導を起こしにくいので温かいのです。ダウンの中身が流動する空気であったら熱を伝導してしまうので保温力は低下します。

しかしながら、温かさを追求するためにダウン量を増やし過ぎてしまうと、着心地はおろか、動きにくくなり、下腹部のハーネスの確認や足元が見えないくらいに着膨れしてしまい、極めて行動しづらく、安全とは言えなくなってしまうのです。

そこで、登場してもらったのがオムニヒート。
オムニヒートのアルミ蒸着加工の熱反射というデッドエアーではないテクノロジーによる保温力を組み合わせることで、ダウン量を厚くしていくことと同等の保温力を実現することが出来ました。しかもスッキリとしたスマートなシルエットになり、行動するクライマーにとっては機動力の向上につながりました。

海外のチームとエベレストですれ違った際、多くの人は着ぐるみのようなダウンを着用していましたので、私たちのスマートなシルエットのダウンを見てギョッとして「そんな薄いダウンで大丈夫なのか？」とよく質問されました。その度に、私はニヤニヤして「今に見てろよ、山頂で会おうな」って心でつぶやいていました。

結果、私たちのメンバーは全員が登頂、全員が無事下山し、そのオムニヒートの能力を実証して見せたのです。足元も見やすく、ハーネス付近のギアのコントロールも容易で、動きやすく、温かい。

そして下山後には、海外のチームから「そのダウンスーツは、どこで売ってるんだ？ 譲ってもらえないか？」などと声をかけられ絶賛されたのでした。めでたしめでたし。（笑）