旅のシーン撮影を得意とするフォトグラファー、福本玲央さんが2022年末に向かったのはチリのパタゴニア。世界中のトレッカー垂涎のトレッキングコースが設けられているトレス・デル・パイネ国立公園を、マウンテンハードウェアとともに巡りました。その土産話とともに、旅と写真が切り離せなくなった理由をお聞きします。
ハプニングとサプライズから始まったパタゴニア
「仕事でチリに行く予定があったので、せっかくなら足を延ばしてみようと思ったんです。カッコいいじゃないですか、パタゴニア。それで日程を2週間延長しました」そう聞くだけで、相当に行き当たりばったり感の強さがうかがえますが、現地に着いてからはさらに出たところ勝負の勢いが増していったようです。
「パタゴニアを巡るパイネ国立公園は、国立公園の許可証やルート上のキャンプサイトを事前に申請する必要があります。最初は、日本から事前に許可を取ろうと思っていたのですが、煩雑な仕組みで手間がかかりそうだったので予約をせずに出発しました。現地に行けば何とかなると思って。ところが、そう簡単にはいかなくて……」 一般的な感覚であれば、そこで諦めるだろうと。そもそも、不確実なまま2週間の予定を組まないだろうと思いながら、話の続きを待ちました。
「前の予定が押したせいで、パイネに向かうバスにも乗り遅れたんです。そこで移動手段の確保に迫られて、町のレンタカー屋を回ったら、残っていたのはオンボロのマニュアル車1台だけ。その最後の1台がこの旅の相棒になりました。それが幸運の兆しになったんですかね。最大の懸案だった申請は、仲良くなったホテルのコンシェルジュの女性が、PCをカチカチ打って取り付けてくれました。聞けば彼女、かつてパイネで働いたそうなんです」 置かれた状況に不安を覚えるか。それ自体を楽しもうとするか。福本玲央さんは、間違いなく後者です。なおかつ、あらゆる体験をラッキーとして笑えるのは、旅人ならではの感性なのかもしれません。いずれにせよ、カメラを携えた彼のパタゴニア紀行は、おそらく当人にとっては慣れ親しんだハプニングとサプライズの連続から始まりました。そんな福本さんの感性は一体どのようなルーツからくるものでしょうか。
旅をしながら写真を撮りたい、という衝動がフォトグラファーへ
現在35歳になる福本さんの最初の大きな冒険は、大学時代に1年休学して向かったバックパッカースタイルの旅でした。卒業後は旅行代理店に就職します。バックパッカーとはまるで異なるラグジュアリーな旅をいくつも経験する中で、会社員時代でもっともためになったのは、社会のルールやマナーを学んだことだったらしく、「とても勉強になった」そうです。転機が訪れたのは4年目。もっと自由な旅がしたい欲求に駆られた末、大きな決断をします。
「自由に旅をしたくてどうしようかと考えたとき、憧れのフォトグラファーが旅で写真を撮って生計を立てていると聞いて、かっこいいな! って。そんな甘い考えでフォトグラファーを目指しました」 学びを求め、将来を相談できる写真家に弟子入りを懇願。沖縄在住の師匠のもとに転がり込みます。
「この師匠は広告の物撮りに特化している職人のような方でした。沖縄に住んでいましたが、撮影はほぼスタジオの中で行われ、外に出る機会は多くありませんでした。写真の技術や作品に向き合う姿勢など多くのことを学べた貴重な経験でしたが、自分のやりたいことをやらなければ、そう思い立って沖縄を離れた直後、一度旅をしてから独立しました」 しかし、駆け出しのフリーランスに与えられる仕事は少なく、たまに報酬が入ればすぐに旅立ってしまう生活には、おのずと限界があります。キャリアについて深く悩んでいたタイミングで、ユネスコの世界自然遺産である小笠原諸島のプロモーション制作の機会が訪れます。自分ならではの旅の捉え方が評価され、少しずつ自信が持てるきっかけとなったそうです。