全米バスフィッシングトーナメントの最高峰『B.A.S.S. バスマスターエリートシリーズ 2021』の最終戦で、見事初優勝を果たした伊藤巧さん!コロンビアのスポンサードアスリートでもある彼に優勝時のエピソードや今後のことを聞きました。
コロンビアのスポンサードアスリートである
プロアングラー・伊藤巧さんが、全米バスフィッシングトーナメントの最高峰に位置づけられる『B.A.S.S. バスマスターエリートシリーズ 2021』の最終戦で初優勝!今回は、最終戦での命を懸けた戦いの模様を伊藤さんにインタビューしました。ゴルフやベースボールにつづき、フィッシングの世界でもスポーツ大国アメリカで大注目された日本人の活躍に迫ります。
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▲Photo by B.A.S.S.
アメリカ挑戦2年目で最高峰シリーズへ
まずは伊藤巧さんが挑戦している『B.A.S.S バスマスターエリートシリーズ』について。1967年に発足したB.A.S.S.は、歴史と規模が最大級のバスフィッシングトーナメント団体です。そのB.A.S.S.が開催しているのがバスマスターエリートシリーズ。一般参加可能のバスマスターオープントーナメントを勝ち抜いた約100名の精鋭だけが参加できる年9戦のシリーズ戦です。さらにシリーズランキング上位約50名に入ると、年1回行われるバスマスタークラシックという名誉ある大会の出場権が得られます。
伊藤さんがアメリカでの挑戦を始めたのは2019年にバスマスターオープンに参戦。渡米1年目で年間4位となり、2020年から念願のトップカテゴリーバスマスターエリートシリーズに昇格。初年度にして年間ランキング23位、バスマスタークラシックにも招待されました。
そしてついに初優勝を遂げたのは、エリートシリーズ参戦2年目の最終戦となったニューヨーク州セントローレンスリバー戦。この大会は2021年7月15日~18日までの4日間競技で行われ、初日38位からトップへ駆け上がった激闘の様子からインタビューを始めます。
▲Photo by B.A.S.S.
初優勝に秘められた死の恐怖
──歓喜の表彰台から少し時間は経っていますが、初優勝が決まった瞬間はどんな気分でしたか?
うれしかったというより驚きのほうが大きかったですね。10人が出場できる決勝日に7位でスタートしたのですが、自分も周囲もほぼ優勝はないと思っていましたから。
──初日が38位で、2日目以降11位~7位と日々順位を上げていった勢いがあっても?
決勝日でトップに立てるのは、良くて5位以上が大会の常です。それに今回は順位の差がつきにくいスモールマウスバスが対象魚でしたから、僕の優勝確率はすごく低かった。だから大会のフォト用のカメラボートは、僕が勝てそうとわかるまで1艇もいませんでした。
──決勝日は、あえて他の選手が寄り付かない難しい場所に向かったそうですね?
場所が遠かったんです。バスボートで片道2時間かかり、釣りに使えるのが残り2時間半に限定されるので、そこまで行く選手はほとんどいませんでした。それでも大きな魚がいると睨んだので、そこで勝負をかけたんです。実は毎日そのポイントに向かっていました。悔やまれるのは初日です。もっと早く行けばよかったのに、ビビってしまって……。
──何を恐れたんですか?
大波です。最終戦はアメリカ五大湖のオンタリオ湖も舞台だったのですが、これが海のように広くて、風が強い日はそこに刺さったら死ぬと思うほどの波、というか水の壁が立つんですね。ボートが沈まないまでも魚群探知機などの装備が波で壊れたらおしまいで、初日はそれが怖くてすぐに行けませんでした。
──日本では経験できないロケーションですか?
できませんね。日本でそこまでの恐怖を感じながら釣りしたことはなかったです。アメリカに行ってからも五大湖の釣りは年に1~2回だったので経験不足もありました。けれどビビるアングラーは勝てないと思い、自分で頬を叩いて初日に1時間だけその場所で釣りました。最初からそこだけで勝負していたら、展開は違ったものになったでしょうね。
──初優勝にはそんな葛藤も秘められていたんですね。
だからこそ自分も周囲も驚いちゃって。表彰台のインタビューで自分が釣った場所を思わず「ディズニーランド」と冗談で言ったら、お客さんが大喜びしてくれたんです。英語が片言なのもよかったみたいで、ようやく存在感が示せたかなと思いました。
自分にしかできない繊細な技術を生かして勝負する
──アメリカのトーナメントに出ようと思ったきっかけを聞きたいのですが、そもそも釣りを始めたのはいつですか?
父が釣り好きで、小学1年生くらいにエサ釣りから入りました。バス釣りに興味を持ったのは、『スーパーブラックバス2』というゲームの影響です。その舞台がまさにアメリカのトーナメントで、自分もいつかバスプロになってアメリカに行きたいと思いました。そこからはもう完全に釣り漬けの日々でしたね。大学も語学勉強優先で選びました。
──すべては夢を叶えるために?
ええ。ただし一度社会を知ってからと思って卒業後は就職して、週末は利根川のローカル大会TBCやH1グランプリに出場し続けました。そこからの数年は、アメリカのトーナメントに出られる道筋が見つけられないままでした。そんな中、2011年のHIグランプリで年間チャンピオンになったとき、3泊5日のアメリカ旅行がプレゼントされたんですね。それが初めての渡米で、やっぱりアメリカで戦いたいという意欲が改めて沸きました。そこからさまざまな方法を探して、多くの方々のサポートをいただきながら、32歳になる2019年にエリートシリーズの下のトーナメントに出ることができました。
──出場が叶ったアメリカの大会は楽しいですか?
楽しいですが、どちらかと言えば辛いことのほうが多いかなあ。日本とのいちばんの違いは選手の体力です。アメリカ人、恐ろしいですよ。寝なくても平気ですから。僕なんか試合では毎日全身筋肉痛に襲われるのに……。
──フィジカル面で心掛けていることは?
釣りに必要な筋肉は試合で鍛えられるので、あとは肉ですね。週5でステーキを食べて、体を大きくするようにしています。
──釣り自体のテクニックで日米の違いはありますか?
アメリカはたいがい大雑把です。それこそフィジカルの強さで釣り上げますね。けれど僕は早い時点で体力の差を感じたので、日本で学んだ自分の釣り方で行こうと決めました。具体的なところを言えば、他のアングラーより細い糸を使うとか、意図的に動かさず“間を大事にする”とか。向こうでもトッププロになるとそういう技を使うので、僕もまた自分にしかできない繊細な技術を生かして勝負していきます。