Episode
02
雨の山は、自然と同化した感覚になれる。
国際山岳ガイド近藤さんと釈由美子さん、なすびさんが語るレイニーライフ
国際山岳ガイドとして活躍中の近藤謙司さん、近藤さんのガイドの下でエベレスト登頂に成功したなすびさん、さらに実は山好きな釈由美子さん。全国山の日協議会「山の日アンバサダー」としても活動している3人に、登山や山の雨について、また、OUTDRY EXTREME(アウトドライエクストリーム)のウェアについて自由に語っていただきました。
やっぱり山っていい! それぞれのきっかけ。
─ みなさんはどういうきっかけで山登りを始めたのですか?
釈由美子さん(以下、釈): 私は、もともと父が山好きだったので、子どもの頃から夏は登山、冬はスキーでした。それこそ立山や富士山は何度も登っています。でも、実際のところ、その頃の自分にとって登山はつらいだけでした。それからしばらく間が空いて、テレビのお仕事で山番組のお話をいただいて、それからですね。山番組のMCをするのに、自分が山に登っていないのは恥ずかしいから、「お父さん、久しぶりに一緒に山に登ろうよ」って白山に誘ったんです。行ってみたら、花の百名山と呼ばれるだけあってお花畑が素晴らしくて、ご来光も拝むことができて……、ああ、やっぱり山っていいなって。そこから親子ふたりで北アルプスや八ヶ岳などに登りに行くようになりました。
近藤謙司さん(以下、近藤): 釈さんがよく山に登られていると山関係の知人からたびたび耳にしていましたよ。
なすびさん(以下、なすび): 僕の場合は、きっかけは2011年3月11日の東日本大震災なんです。僕は福島県出身で、震災後の地元福島や東北のみなさんのために何かできないかと。そのためにエベレスト登頂を目指しました。勝手な思い込みでしかないのですが、僕はお金やモノを直接届けるのではなくて、なにか自分ががんばることによって、復興への心を豊かにできたらと考えたんです。登山経験もない人間がエベレストだなんて無謀だし、最初は売名行為だと叩かれもしました。最終的には3回失敗して、4度目でようやく登頂できました。3回失敗したなかでもいろいろな紆余曲折があり、ネパール大地震に巻き込まれて、雪崩で死にかけました。それでも「なすびさんのエベレスト挑戦に勇気をもらっているから、あきらめないで挑戦し続けて」と言っていただけた東北のみなさんの笑顔があって、それで押し上げてもらったエベレストです。自分で達成した喜びより、東北のみなさんの笑顔がつなげられたという安堵感が大きかったことを覚えています。
近藤: 4回挑戦して良かったと思いますね。なすびさんが参加してくれた僕の遠征隊的には、普通のお客さんと同じシステムだったら、たぶん最初から登れたと思いますよ。でも、それだと感動は届けられないと思ったんです。それで僕は、ウチの現地(ネパール人)スタッフのように、自分の荷物は自分で背負う、空路も使わず、カトマンズ郊外の街からポーターとともに自分の脚で歩く、それなら売名行為だなんて誰も言わないだろうし、その気の遠くなるようなアップダウンと長距離を乗り越えてきたら、みなさんに努力が伝わるし納得してくれるに違いないって。まあ、他の隊員と僕は普通に飛行機を使いますけどね(笑)。
しっかりした装備なら、雨すら一体になれる。
─ 道具や装備をどう学んだのですか?
釈: 私の場合は、幸いにもそれを学ぶ番組に出演させていただいたので、レインウェアから登山靴まで、初心者目線でイチから勉強できたのです。天気予報で晴れだからと思っていても、山の天気は変わりやすいし、1着のレインウェアがないだけで低体温症で致命傷にもなったりするので、ホントに大事なのだとすごく思いましたね。
近藤: 道具は、技術と体力を一番にカバーしてくれるもの。なかでもウェアは体に直接身につけて命を守るものじゃないですか。道具は命に関わるモノから揃えていけと僕は教えています。その意味では今回みなさんが着ているColumbiaのOUTDRY EXTREMEは、画期的なアウターシェルだと思いますね。シェルは一番そのメーカーらしい創意工夫を出せるアイテムですが、このOUTDRY EXTREMEは、2層構造の生地をひっくり返しているんですよ。普通はメンブレンを守るためにナイロンやポリエステルの表地と裏地を貼るんですけど、これは表面にメンブレンが露出しているんです。
釈: だからこんなにやわらかいんですね?
近藤: そう、やわらかいですし、これのどこがすごいかというと、表地に水が溜まらないから、水が浸み込むところが一切ない。だから、葉っぱが水を弾くように、雨が水玉になってどんどん流れ落ちていく。
釈: 生地が吸収しないんですか?
近藤: もちろんしないです。メンブレンを表に持ってきたというのはすごい発想だなと僕は思っています。
釈: 今までのレインウェアだと、どうしてもごわごわした着心地になるから、雨が降らない時は着たくなかった。でもこれだったらずっと着続けても平気ですし、普段使いできるところが嬉しい。このやわらかさは他にないですよね。
近藤:雨の日にちょっと着て歩きたいって思えるでしょ。子どもの頃に初めて傘と長靴を買ってもらった時のように、早く雨が降らないかなぁ、なんて思ったりして。雨の山を楽しんじゃおうかなって気にもなりますよね。
釈: 私は北八ヶ岳のあの苔むした森が大好きなんです。それがちょっと雨に濡れて、ふわりと緑に包まれる感じ。霧が掛かって、すごく幻想的で。屋久島にもよく行きましたが、もうあそこは雨の島というくらい。でも、しっかりした装備で行けば、雨すら一体になれる。雨だから歩くのがイヤになるのではなくて、山と自然に同化した感覚になれるのが好きですね。
近藤: 雨の日は足下の自然に気づきやすいんですよ。普段は遠い景色に目が行きがちなんですが。苔だったり、シダだったり、その美しさに気づかされる。雨の日はそういう良さもありますね。
登山は競技じゃない。だから、自由に楽しめる。
─ これから登山を始めたいという人に、ひと言アドバイスを。
なすび: 僕はもともと山に憧れて入った世界ではないので、逆に客観的に見ることができるというか、なんでみんな山登るんだろうって気持ちを持ち続けられています。だから、初めての人が悩んでみたり、ちょっと立ち止まったりという気持ちがよくわかります。その意味でいえば、一番は歩くこと。歩いて自然に触れて、一歩一歩、自分の目標に対して努力していくことでしょうか。あまりハードルを上げる必要もなく、山の高い低いにかかわらず、みなさんが思う通りの山歩きをしてもらえたらなと。
釈: なすびさんのおっしゃるように、なんで山に登るの?って一番よく聞かれる質問だと思うんです。けれども、実際に登ってみて、楽しさがわかってくると、逆になんで山に登らないの? と言いたくなるくらい(笑)。最初のきっかけや動機は人それぞれだと思うんですが、実際に一回来てみると、なにかひとつでも山の魅力を見つけられると私は確信しているんです。だから、だまされたと思って1回山に来てって、友達には言っています。山に行って、山の素晴らしい思い出を持って帰ってと。
近藤: 登山ってね、ほかのスポーツと違って競技じゃないんですよね。人間が決めたルールもホントはないはずなんです。自由で、自分が主体的にやっていけるという魅力がある。そんな山に惹かれて、行きたい、って最初に思った時の、ときめき。それを無くさないようにして、倍増させて山に持ってきてもらうのが僕の役目だと思っているんですよ。で、実際に山に行くと怖いことやストレスがあるんですが、それをできる限り取り除いてあげる。まずは来てごらんよと誘って、いろんな体験をさせてあげて、だけど、ときめいた時の気持ちは絶対に遮断しない。それが大事だと思います。
釈: 山って、何気ないことが楽しいですよね。山で食べるごはんが美味しかったり、山で出会う男の人がカッコよかったり……。
近藤: 山でカッコいいって言われたことないなぁ(笑)。
釈: スキー場と同じで、山は男の人を男らしく、カッコよく見せるんですよ。山マジック(笑)。
近藤: 女の子もすごくかわいく見えちゃうからね。ウェアを着ているとね。
なすび: それはちょっと語弊がある発言じゃないですか、大丈夫ですか(笑)。
Profile
近藤 謙司 さん
国際山岳ガイド連盟公認 国際山岳ガイド
チョモランマ冬季北壁最高地点到達等の記録を持つクライマー。チョーオユーやチョモランマでは当時の最高齢登頂者を山頂に導き、アルプスではアイガー、マッターホルンのガイドとして活躍。2013年には、エベレストよりローツェへの連続登頂を成功させる。映画・テレビ・CMの出演やコーディネート、講演会や登山商品開発も積極的に活動中。著書に『エベレスト、登れます』(産業編集センター)がある。一般社団法人全国山の日協議会「山の日アンバサダー」。
釈 由美子 さん
女優 / タレント
1997年デビュー。映画『修羅雪姫』、『ゴジラ×メガゴジラ』、『KIRI職業・殺し屋』、ドラマ『スカイハイ』、『7人の女弁護士』などの作品で主演を務めるなど出演作品は累計100作を超える。舞台、グラビア、イベント、ナレーション、広告出演等、多方面で幅広く活躍。美容関連書籍『釈ビューティー!』『釈ボディ』『釈美スタイル』出版。登山愛好家として親しまれ、山岳関連書籍『山の常識 釈問百答』を上梓。登山番組『実践!にっぽん百名山』では番組司会を務める。写真集出版多数。温泉ソムリエ、山ガール、古武道(十二騎神道流)二段。愛犬家、一児の母。一般社団法人全国山の日協議会「山の日アンバサダー」。
なすび さん
俳優 / タレント
福島県福島市出身。日本テレビバラエティー番組「電波少年的懸賞生活」への出演でブレイク。2002年に劇団「なす我儘(ガママ)」を立上げ座長を務める。2013年、東日本大震災で被災した故郷福島の復興再生への祈念を込め、エベレスト登山に挑戦するも頂上直前100メートルにて下山。2014年再びエベレスト登頂に挑戦するも雪崩により断念。2015年3度目のエベレスト登頂を目指す途中、ネパール大地震に遭遇、奇跡的に生還。2016年4月、4度目のエベレストへ向かい5月19日遂に登頂を果たす。現在は地元福島と東北の復興を願い、多岐にわたる活動を行っている。一般社団法人全国山の日協議会「山の日アンバサダー」。
MEETING
それぞれのフィールドと雨を語り合う